2025-12-01から1ヶ月間の記事一覧
夏の朝は、いつもよりまぶしく見えた。 蒸し暑い空気、遠くから聞こえるセミの声。 胸の奥で、何かがゆっくりと膨らんでいく。 ――今日で終わるんだ。 この夏が。 このチームが。 そしてレオの、高校野球の時間が。 地区大会・決勝戦。 勝てば甲子園。 負けれ…
レオが倒れた瞬間、時間が止まったようだった。 「レオ!?」 叫んだのは俺と村上だった。 夏合宿の古い廊下で、レオは壁に手をついたまま、力が抜けるように崩れ落ちた。 慌てて担ぎ上げ、近くの休憩室に運ぶ。 汗は異常に冷たく、呼吸は浅い。 俺の胸の中に…
鳳凰学院を倒したあの日から、世界の色が変わった気がした。 いや、正しく言うと―― “周りが勝手に色を変えた” のだ。 俺たちは昨日までと同じように練習し、汗をかき、泥にまみれ、 打球を追い、ボールを磨き、ただ野球をやっているだけだった。 だけど、周…
鳳城高校との壮絶な一戦から三日が経った。 あの日の光景が、まだ頭の中で何度も再生される。 レオのホームランの弾道。 相手ベンチの言葉を失った顔。 僕たちの胸の奥で弾けた、あの静かな高揚。 しかし、俺たちの知らないところで―― どれほどの“波紋”が広…
強豪・白浜高校との招待試合の日が来た。 千葉県でもトップクラスの名門校。甲子園常連。県のスター選手が揃うモンスターみたいなチームだ。 それでも、僕たちはやっとここに立てた。 紅白戦でのレオの活躍が一気に噂になり、信じられないオファーが届いた。…
強豪・鳳城学園から届いた「練習試合申請書」は、北泉高校の野球部室を、一瞬にして“非日常”へ引きずり込んだ。 県大会常連、甲子園出場回数トップクラス――県内の誰もが知る名門校。その鳳城が、なぜうちなんかに? その答えは、誰の目にも明らかだった。 ――…
紅白戦の翌日から、学校はまるで違う場所になった。 昨日まで“ただの転校生”だったレオは、気づけば校内の中心人物になっていた。 廊下ですれ違うたびにひそひそと声が聞こえる。 「ねぇ、あの子が“場外打った”って噂の……」「動画見た?えぐかったよね」「北…
レオが放った場外ホームランが着地するより先に、紅白戦の空気は完全に変わっていた。 ざわめきは、もはや騒音に近い。 ベンチからも、スタンドからも、誰かの驚愕した息遣いが聞こえてくる。 彼はホームインすると、一礼して静かにバットを返した。 派手な…
あの日バッティングセンターで見た“怪物”のスイングが、頭から離れなかった。 あの破裂音。打球の軌道。余裕の表情。 そして、何より――見たこともないフォームで、見たこともないボールの飛び方をする“少年”の存在。 名前はレオ。 それ以外のことは、何ひと…
千葉の住宅街にある、いつものバッティングセンター「HIT-99」。 平日の放課後にしては人が多い。それでも、僕――朝比奈 颯にとっては、ここが一番落ち着ける場所だ。 野球部のキャプテンなんて肩書きはあるけれど、プレッシャーに強いわけでもない。 むしろ…
世界の入り口に立った日 冬の空気が、少しだけ刺すように冷たかった。駅前の広場ではイルミネーションが点灯し、行き交う人たちが忙しなく年末の空気を運んでいた。 彼女から連絡が来たのは、ちょうど放課後のチャイムが鳴り終わった頃だった。 「今日、話せ…
ひとつの歌が、会場の空気を書き換える サビに入った瞬間、世界が反転したかのようだった。 体育館の全員が息を呑み、スマホを構えていた手をゆっくり下ろす。 「……すげぇ……」 誰かが漏らした声が、静寂のなかで鮮明に響いた。観客が“見る”ことすら忘れて、…
体育館の前に生まれた“異様な列” 体育館の外には、開場前だというのに長蛇の列ができていた。文化祭のバンドイベントで、ここまで人が集まったことなど一度もない。校門を越えて道路まで伸びるその列は、まるでプロミュージシャンのライブのようだった。 「…
文化祭が終わった翌日。 学校はまるで昨日の熱気をそのまま抱えたように騒がしかった。 廊下を歩くだけで、あちこちからひそひそ声が聞こえる。 「昨日のステージ、やばかったよね!」「動画の子って、あのボーカルなんだろ?」「名前、なんて言うんだろ……」…
文化祭当日の朝、学校の空気はいつもよりざわついていた。 校舎の入口には装飾が飾られ、どこからかポップコーンの甘い匂いが漂ってくる。 けれど、僕の胸の中は静かではなかった。 緊張で手が汗ばみ、ギターケースの取っ手が妙に重く感じる。 今日は――本番…
文化祭まで、残り七日。 教室の窓から見える空は澄んでいるのに、胸の奥は重く沈んでいた。 “まだ決められない” 美咲のあの言葉が、頭から離れなかった。 携帯を開いても、彼女からの返信はない。 昼休みになっても、食欲がなかった。 「大丈夫?」 沙耶がサ…