【AI小説】現実のようなフィクション

フィクションでしか描けない“現実”がある。 小説を通して、社会と心のあいだを見つめていく創作ブログです。

The Last Pitcher ― あの日、天才が現れた ―』第1話 天才との遭遇

千葉の住宅街にある、いつものバッティングセンター「HIT-99」。
 平日の放課後にしては人が多い。それでも、僕――朝比奈 颯にとっては、ここが一番落ち着ける場所だ。

 野球部のキャプテンなんて肩書きはあるけれど、プレッシャーに強いわけでもない。
 むしろ、重圧に押しつぶされそうな日々のほうが多かった。

 だから、こうして一人でボールを打ち返しているほうが、よほど気が楽だった。

 ――その日までは。

 いつも通りバットを構え、適当に肩を回しながら球を待つ。
 マシンの投球口に「90km」と点灯しているのを確認して、軽くスイングの感覚を確かめた。
 乾いた金属音。悪くはない。

 だが、次の瞬間、その店内に“異音”が響き渡った。

 「カンッッッ!!」

 空気を破裂させるような音。
 地響きすらするような衝撃。
 僕は思わず振り返った。

 ネット天井に白球が突き刺さり、まるで重力を忘れたかのようにズルズルと垂れ落ちてくる。
 ありえない。あれは――プロでも難しい。

 「なに、今の……?」

 周囲の客がざわつき始めた。
 僕も、つられて“そいつ”のほうを見た。

 黒いキャップに、スウェット。
 どこにでもいそうな体格なのに、構えたときの“静けさ”が異様だった。

 少年は、年齢でいえば僕と同じくらい。
 だけど、漂う空気が違っていた。

 次の瞬間、また音が鳴った。

 「カンッ!」
 「え!? 速っ……!」

 打球は、天井のネットを突き破りそうなほど一直線にのぼっていく。
 バッティングセンター中の視線が彼に集中した。

 僕の鼓動も、熱くなっている。

 ――なんだ、あいつ。

 打球の質も、スイングスピードも、体重移動も、レベルが違う。
 見ているだけで、背筋がゾクッとした。

 たかがバッティングセンターの一場面なのに、まるでプロの試合を見ているような緊張感。
 それでも彼は淡々と、ただ淡々と打ち続けていた。

 「おい、見たかよ」「動画撮れ動画」「誰だ、あれ?」

 そんな声があちこちから聞こえる。

 やがて彼がバットを置き、席を立った。
 歩き方は普通。どちらかといえば静かで控えめ。
 だが、あれだけの実力を持つ者が放つオーラは隠せない。

 すれ違う瞬間、僕の視線に気づいたのか、彼がふとこちらを見た。

 その瞳には、どこか遠くを見つめるような影があった。

 「……すごいな、お前」

 気づけば、僕は声をかけていた。
 彼は少し驚いたように瞬きをして、控えめに笑った。

 「ありがとう」

 それだけ言うと、また歩き出した。

 その一言が不思議だった。
 外国人のような響きではない。でも、発音の癖が少しだけ違う。

 「……日本人じゃない?」

 ふっと疑問がよぎった。

 その日の帰り道、僕は頭からあの打球音が離れなかった。
 あのスイングは、ただ者じゃない。
 野球部の仲間たちに話したら、絶対に信じないだろう。

 ――翌日。

 噂は、予想以上のスピードで学校中に広がっていた。

 「昨日のバッセン、やばい奴いたらしいな」
 「天井ぶち抜く勢いだったってよ」
 「動画見た? 再生数エグいぞ」
 「え、地元にあんな奴いんの?」

 僕は思わず聞き耳を立ててしまった。
 スマホを取り出すと、SNSのトレンドに「黒キャップの怪物」という投稿が上がっている。

 ――その動画の中心には、間違いなく彼がいた。

 誰なんだ、本当に。

 放課後。
 部室に行くと、監督が僕を呼び止めた。

 「朝比奈、ちょっと来い」

 監督はいつも淡々としているが、今日は少し雰囲気が違った。
 どこか含みのある目で僕を見つめる。

 「明日の紅白戦、ゲストが来る」

 「ゲスト?」

 野球部に“ゲスト”など聞いたことがない。

 「ちょっとした事情があってな。お前が昨日見た選手……あいつだ

 僕の心臓が止まりそうになった。

 ――え?
 ――なんで、監督が彼を知ってるんだ?

 「彼は……特別な事情がある。とりあえず、試合が終わったら紹介するつもりだったんだが……」

 監督は言葉を濁した。
 その表情から、ただならぬ理由があることは明らかだった。

 「明日の紅白戦は、少し面白くなるぞ」

 監督はそう言って、意味深な笑みを浮かべた。

 その夜、僕はまったく眠れなかった。

 ――あの天才が、野球部に現れる。
 理由も目的も分からないまま。

 このときの僕には想像もつかなかった。
 彼の存在が、チームの運命を大きく変えることを。
 そして、自分自身の野球人生にも、深く関わっていくことを。

 すべては、明日の紅白戦から始まる。